
生産者とともに歩むキーコーヒーが取り組む「持続可能なコーヒーづくり」
キーコーヒーは1920年に横浜で創業し、100年以上にわたり日本におけるコーヒーの普及・喫茶文化の発展に貢献してきました。現在は、気候変動によって将来のコーヒー生産が危ぶまれる「コーヒーの2050年問題」に向き合いながら、生産地とともに持続可能なコーヒーづくりに取り組んでいます。コーヒー生産への取り組みや思いについて、キーコーヒー株式会社 秘書広報部 広報チームリーダー・田口勇治さんに話を聞きました。
2050年にコーヒーの生産地が半分になる可能性

ーーコーヒーの2050年問題について教えてください。
私たちが日頃飲んでいるコーヒーの多くは、「アラビカ種」と呼ばれる品種で、そのほとんどが北緯25℃から南緯25℃の間に広がる「コーヒーベルト」という地域を中心に栽培されています。
ところが近年、地球温暖化による気候変動の影響でコーヒーベルトの環境が変化し、2050年には1950~2000年代と比較し「アラビカ種」の生産地が半減する可能性があると言われているんです。2015年のミラノ万博で、世界的なコーヒー研究機関であるWorld Coffee Research(WCR)によりこの説が提唱されてから、当社は翌年にはWCRとの協力を開始しています。現在では、世界中のコーヒー関連企業・団体も解決に向けた取り組みを始めています。
ーー地球温暖化の影響でコーヒーの生産量が減ってしまうのはなぜですか?
品質の高いアラビカ種のコーヒーを生産するためには、標高や雨季と乾季のサイクル、昼夜の温度差など、さまざまな条件が揃う必要があります。地球温暖化によって気温や降雨サイクルなどが変化すると、アラビカ種の育成に影響が出るうえ、「さび病」という病気も発症しやすくなり収穫量が落ちてしまうんです。安定的にコーヒーが作れなくなり生産者がコーヒー栽培をやめてしまうと、さらにコーヒーの収穫量が落ち込むことも考えられます。

ーーすでに収穫量に変化があるのでしょうか。
コーヒーは農作物です。栽培されている品種や環境によって収穫量は変化するため、世界中での収穫量がどう変化しているかは長い目で見る必要があります。ただ、これまでとは産地の状況が変化しており、収量が減っているところもあれば、以前はコーヒーの栽培に適さなかった場所でも栽培ができるようになる可能性もあります。
降雨パターンの変化も報告されています。国によっては、本来は乾季であるはずの時期に降雨が多くなっています。そのせいで、せっかく熟したコーヒーの実が雨のせいで落果してしまったり、天日干しをしている最中にカビが発生するなど収量や品質面でさまざまな影響があります。
環境変化に適応できるコーヒー豆の品種を調査中
ーー多くの課題があるんですね…!キーコーヒーさんはその課題解決のためにどのような取り組みを行なっているのでしょうか。
「コーヒーの2050年問題」が提唱された翌年の2016年から、WCRが世界中で実施している栽培試験「IMLVT(International Multi-location Variety Trial(国際多地域実証試験))」に協力しています。
これは、世界のさまざまな企業・団体が協力し「どの栽培条件にはどの品種が適しているのか」を調査する試験です。当社は、インドネシアのスラウェシ島・トラジャ地方に直営農園を所持しているのですが、その農園の一画を提供し栽培データを収集しています。
WCRの実証結果では、同じ品種でも栽培環境によって生育や収量、病害への強さが大きく変わることが明らかになってきました。現在でも、気候の変化に適応できるコーヒーの生産方法を探っています。
また、2022年には社内に「コーヒーの未来部」というコーヒー生産に関するサステナブル活動を推進する専門部署を創設しました。社長の柴田がみずから部長を務め、“コーヒーの未来を守るためには何ができるか”を日々模索しています。現在はWCRとの連携も「コーヒーの未来部」が主導で行っており、自社だけではなく外部の機関とも協力しながらさまざまな活動を展開しています。
ーーインドネシアに直営農園を持つようになったのはなぜですか?
直営農園のあるトラジャ地方は、戦前からコーヒーの産地として知られていましたが、戦時中の混乱で農園はすっかり荒れ果ててしまったそうです。
1970年代のある日、トラジャ地方の高品質なコーヒーに魅了された当社の元社員が、ひと握りのコーヒー豆を役員室に持ち込みました。居合わせた役員たちがそのコーヒーを飲んでみたところ、あまりのおいしさに感動し「このコーヒーを復活させよう」と決意。現地の関係者と協力しながら畑の開墾や農道の整備などインフラを整え、コーヒー産地としての復活に取り組んできました。
トラジャ地方の直営農園で栽培されたコーヒーは、当社のフラッグシップコーヒー『トアルコ トラジャ』に使用されています。『トアルコ トラジャ』は発売から2026年で48周年。50年近くの長きにわたり、多くの方に親しまれています。
ーーインドネシアでのコーヒー産業の復興にも携わっていたのですね!
直営農園の近隣にあるコーヒー農家さんに対しては、苗の無償配布や栽培技術の指導、コーヒー栽培に必要なシェードツリー定植の手伝いなどを行うこともあります。それらはすべて、コーヒーの未来を守るため。「サステナビリティ」という言葉も概念も一般的ではなかった頃から持続的なコーヒーの生産を実現するべく、産地と一体になった取り組みを推進しています。
また、現在ではインドネシアで培った知見を活かし、「アラビカ種の発祥の地」といわれるエチオピアでも活動を展開しています。一例としては、エチオピアの小規模コーヒー生産者を支援するため、2024年に環境省から「令和6年度気候変動に脆弱な小規模コーヒー生産者の明るい未来提案業務」を受託。現地の小規模コーヒー生産者から、コーヒー生産に関することをヒアリングし、環境変化に適応するための農法をレクチャーするなどしています。
生産の背景や苦労を知ると、コーヒーの味わいが変わる

ーー環境負荷低減の取り組みもしていると聞いています。
身近なところでは、これまで廃棄されていた抽出後のコーヒー粉(コーヒーグラウンズ)のアップサイクルを訴求しています。コーヒーグラウンズは堆肥や肥料として使えるほか、コーヒーの油分を活かして靴磨きや鍋磨きとしても利用できます。さらに、直営農園ではコーヒーの果肉部分を堆肥にするなど、資源を無駄にしない取り組みも行っています。
ーー余すことなくコーヒーを有効活用しているんですね。お話を聞いていると、コーヒーに対する愛情が伝わってきます。
研修の一環として、社員がインドネシアの直営農園を訪れることもあります。私も直営農園に赴いたことがありますが、非常に山深い地域で、ジャカルタからスラウェシ島へ飛行機で移動し、そこから車で10時間ほど北上してようやく辿り着きました。途中からは山道となり、ジープでなければ通れないほど道が険しかったのを覚えています。
収穫時期、農園では早朝から収穫が始まりますが、農家の方の中には数時間かけて徒歩で農園まで来る人もいました。現地の様子を実際に見て、そこで働く方たちを知ると、当たり前のように日々飲んでいるコーヒーに対する思いが変りました。

ーー最後に、今後の取り組みについて教えてください。
日常のなかで何気なく飲んでいるコーヒーも、生産に携わった国や人々、過程、背景などを知ることで少し違った視点で楽しんでもらえると思います。
例えば、コーヒーのブレンドには、さまざまな国のコーヒー豆が使われています。一杯のコーヒーが世界のさまざまな産地とつながっていると考えると、味わいや感じ方も変わってくるのではないでしょうか。
広報としては、多くの方にコーヒーのこのような面を知っていただき、興味を持っていただきたいと考えています。コーヒーをお好きな方はもちろん、そうでない方も、「これからコーヒーを飲んでみよう」という未来の愛飲者の方にも、コーヒーの面白さや魅力をお届けしていきます。
◇◇◇
私たちが毎日当たり前のように飲んでいるコーヒー。その一杯の背景には、生産者の努力や長い歴史、そして未来のコーヒーを守るための取り組みがあります。そうした背景に思いを巡らせながら味わうコーヒーは、いつもより美味しく深みがありました。
取材、文/ゆう
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※本記事の内容は、本記事作成時の編集部の調査結果に基づくものです。














