
捨てないために、つくる。MiYO ORGANICの竹歯ブラシが描く“やさしさの循環”
毎日使う歯ブラシ。その1本を、竹でつくるブランドがあります。サステナブルを重視する世界のホテルブランドにも選ばれるMiYO ORGANIC(ミヨオーガニック)。「環境にいいから」ではなく、「気持ちいいから、続けられる」。そんな哲学で日常に“やさしさの循環”を届けています。ブランド誕生のきっかけと、竹がもたらす心地よさについて、株式会社MiYO ORGANIC 代表取締役の山本美代(やまもとみよ)さんにお話を伺いました。
目次
気づいてしまった“責任”から始まったブランド

シンガポール食器ブランドのプロデューサー、ウェディングコーディネーターを経て、2017年に食器コーディネート事業「DINING+」を立ち上げ、星付きホテルからカフェまで幅広い店舗に食器提案を行ってきた。2020年には一般社団法人 食器ソムリエ協会を設立し、知識と経験を体系化した「食器ソムリエ講座」で人材育成に尽力。また、地球環境への想いから「MiYO ORGANIC」を立ち上げ、竹歯ブラシを中心に、毎日の暮らしから選べるサステナブルな選択肢を提案している。

──MiYO ORGANICを立ち上げたきっかけを教えてください。
2018年の冬、出張で泊まったホテルで、備え付けの歯ブラシを使ったときのことです。「この歯ブラシ、明日にはもうゴミになってしまうんだな」と、ふと思ったんです。世界中で、いったいどれくらいの歯ブラシが毎日捨てられているんだろう…。胸の中に小さな違和感が残り、環境にやさしいアメニティについて、考えるようになったことが最初のきっかけです。
とはいえ、歯ブラシをはじめシェーバーなどのアメニティに、環境が配慮されているものは当時はほとんど見つかりませんでした。「それなら、自分で作ってみよう」と。家業で割り箸やプラカップなどの製品を扱っていたこともあり、どこかで“気づいてしまった責任”のような気持ちがあったのかもしれません。
──ブランド名「MiYO ORGANIC」には、どんな想いが込められているのでしょうか?
「MiYO」は、私自身の名前から取っています。“美しいことを次の世代に”という願いを込めて、両親がつけてくれました。ものづくりを通して、誰かの暮らしが少しでも心地よく、そして未来が少しでも美しく続いていくように。そんな願いをブランド名に託しました。
竹という、強くてやさしい素材

──サステナブル素材がたくさんあるなかで、なぜ、“竹”を選ばれたのでしょう?
ヨーロッパやアジアを視察する中で、竹の歯ブラシに出会いました。竹はCO₂を吸収しながらぐんぐん育つ、生命力の強い植物です。根から葉まで無駄がなく、“枯渇しない天然資源”と言われています。伐っても根を残してまた生えてくる。その強さと循環の仕組みがとても美しいと思いました。
そして、手に取ったときの心地よさ。環境に良いだけでなく、「気持ちいいから使いたい」と思える素材にしたい私たちにとって、竹は、やさしさと強さを兼ね備えたぴったりの素材でした。
“エシカルセルフケア”という新しい日用品のかたち
──MiYO ORGANICが大切にしている「エシカルセルフケア」とは、どんな考え方なのでしょう?
私たちは、環境へのやさしさと自分を大切にする心地よさ、そのどちらも手放したくないと思っています。「地球のために我慢する」でも、「自分の快適さだけを優先する」でもなく、気持ちよく続けられる選択が、めぐりめぐって地球にもやさしい。それが、MiYO ORGANICが考える“エシカルセルフケア”です。
毎日使うものを少しだけ変えること。その小さな選択が、自分を整え、世界を変えていく——。そんな想いを製品に込めています。
毎日使うものだから、しっかり磨けることを大切に

──竹歯ブラシは歯科衛生士の方と共同開発もされたそうですね。
「環境にやさしい」だけでなく、「きちんと磨ける」ことを大切にしました。歯科衛生士の方と一緒に、ヘッドのサイズや毛の植え方を何度も調整して、日本人の口のサイズに合う形をつくったんです。
プラーク除去率の検証も重ね、機能面でも自信を持てる歯ブラシになりました。2022年度グッドデザイン賞をいただいたのも、“暮らしに寄り添うデザイン”が評価していただけたからかなと思っています。
世界が選んだ、やさしさ
──ホテルでの導入も進んでいますね。
ありがとうございます。現在、国内外500以上のホテルや旅館でMiYO ORGANICのアメニティを導入いただいています。リッツ・カールトンやマリオットのような世界的ホテルでも採用されました。
こうしたホテルはESGやSDGsの観点から調達基準が非常に厳しいんです。その中で選ばれたことは、“世界が認めたやさしさ”として大きな励みになっています。
ゴミをもう一度、宝物に

──使用後の歯ブラシを回収・再利用する「アップサイクル事業」も展開されていますね。
どれだけ良い素材でも、使い捨ててしまえば意味がありません。だからこそ、“使ったあとのこと”まで考えた仕組みが大切です。
ホテルで使用済みの竹歯ブラシを回収し、ブロックやコースターなどに再資源化する取り組みを行っています。リッツ・カールトン東京では、「Trash to Treasure(ゴミを宝物に)」をテーマに、子どもたちとアップサイクル体験を行いました。
“使い終えたあと”までデザインする。それもMiYO ORGANICのものづくりです。
誰が、どこで、どう作るのか

──素材の生産背景やトレーサビリティについて教えてください。
MiYO ORGANICで使用しているのは、中国・揚州の管理された竹林で育ったFSC認証の竹(※)です。現地の生産者とは直接対話を重ね、栽培から製品化までの流れをきちんと把握できる体制を整えています。
同じエコ素材でも、どんな人がどんな想いで作っているかで、その価値はまったく違ってくると思うんです。数字や流行よりも、顔の見える信頼関係の中で作ることを大切にしています。
※FSC(Forest Stewardship Council/森林管理協議会):環境・社会・経済のバランスに配慮した、持続可能な森林管理を行う国際的認証制度。
日本の竹で、世界へ循環をつなぐ

──今後の展望を教えてください。
将来的には、日本の竹を使って製品をつくっていきたいと考えています。日本各地には豊かな竹林がありますが、管理が追いつかず、その多くが活用されていません
MiYO ORGANICが大切にしているのは、“遠くの資源”に頼るのではなく、足もとにある自然の力を信じること。海外から輸入するだけでなく、地域の素材や技術をいかして、「日本発のサステナブルな循環」を世界へ広げていきたいと考えています。
日本の竹には、繊維としての美しさやしなやかさだけでなく、古くから暮らしを支えてきた歴史があります。その文化の延長線上で、もう一度“今の暮らし”につながる形を生み出したい。自然と人、そして地域がともに続いていく未来へ。
それが、MiYO ORGANICの次の挑戦です。
小さな選択が、未来を変えていく
──エコやエシカルな商品を選ぶとき、私たちはどんな視点で選べばいいのでしょうか。
毎日使うものから変えてみてはいかがでしょう。歯ブラシ1本から、“自分が心地よくなれるもの”を選ぶことが、未来を少しずつ変えていく一歩になります。
無理をする必要はありません。心地よい選択を続けていくこと。それが本当の意味でのサステナブルだと私たちは考えます。
◇◇◇
お話を伺い、印象的だったのは、“環境にいいから使う”ではなく、“気持ちいいから続けられる”という言葉でした。「毎日使うものを選び直す」という、やさしいサステナブルの入口を教えてもらったような気がします。
エコや環境問題を、もっと“自分の暮らしの中”で考えてみたくなる。MiYO ORGANICのストーリーには、そんな力がありました。
取材、文/おだりょうこ
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※本記事の内容は、本記事作成時の編集部の調査結果に基づくものです。














