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更新日: 2026年7月8日

ベトナムは変わった。でも、私も変わっていたーー30年ぶりのハノイで思ったこと

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30年ぶりにハノイへ行きました。30年。その数字を書いて、自分で少しひるみます。30年前といえば、私の眉毛は細く、お腹はなぜか出しておくものだと思っていて、人生経験より勢いのほうが圧倒的に多かった時代です。映画『シクロ』や『青いパパイヤの香り』に胸焼けするほど感化されて、東南アジアばかり旅していました。今や私は五十路街道まっしぐら。人生の地図を中間地点で折り返し、逆から読み始めるような年齢になりました。変わったのはハノイだけじゃない。どうやら私も、ずいぶん変わっていたみたいです。

ハノイは、思ったより近かった

夜のハノイの風景
撮影:ワタシト編集部

「ベトナムって遠そう。」そんなイメージを持つ人は少なくないかもしれません。でも、日本からハノイへは成田や羽田、関西国際空港などから直行便が就航していて、飛行時間は約5~6時間。時差も日本より2時間遅いだけです。ヨーロッパへ行くことを思えば、ずいぶん近い。

ハノイへのアクセス

・日本から直行便あり(成田・羽田・関西など)
・フライト時間:約5~6時間
・時差:-2時間
・ベストシーズンは10~4月。比較的涼しく街歩きがしやすい

若い頃は、「遠くまで行った」という達成感も旅の醍醐味でした。でも今は違います。翌日ちゃんと歩けること。夜ぐっすり眠れること。時差ボケより膝のコンディションが気になること。そんな自分に少し笑いながら、「これも悪くないな」と思っています。

ハノイに着いて数時間。まず、前髪が終わる

ハノイの街並み
撮影:ワタシト編集部

ハノイに着いてすぐ、私は重要な事実に気づきました。

湿度がすごい。

いや、知っていたんです。ベトナムですから。若い頃も同じように感じたはずなのに、忘れていました。朝、日本で丁寧に整えた前髪は、昼にはうねり、夕方には膨らみ、夜には独立を宣言しました。

頭の上できのこが栽培されている。
そんな気さえします。

30年前も湿気はあったはずです。でも当時の私は若かった。髪にも体力があった。

今は違う。

一本一本が自由を求めている。虫よけスプレーは、もはや香水。旅の必需品もずいぶん変わりました。

へそを出していた頃の私

20代の私は、東南アジアばかり旅していました。東南アジアの熱気も、雑踏も、排気ガスも、全部まとめて吸い込みたかった。なにがそんなに忙しかったのかわからないけれど、全身がいちいち主張していた。

若かった。
そして、とにかくうるさかった。

今の私は、へそはしまい、眉毛は育ち、風よりもWi-Fiの強さを気にするようになりました。進化なのか退化なのかはわかりません。
ただ、ひとつだけ言えるのは、へそをしまうようになったのは人生哲学ではなく冷え対策です。

30年ぶりのハノイは、ずいぶん観光地になっていた

トレインストリート
撮影:ワタシト」編集部

街を歩いていて驚いたのは、おしゃれなカフェの多さでした。

古い建物を改装したカフェ。
植物が天井から垂れ下がるカフェ。
アンティーク家具が並ぶカフェ。
ベトナムコーヒーやエッグコーヒーを片手に、世界中の旅行者が写真を撮っている。

30年前の私は、フィルム36枚をどう使うか真剣に悩んでいました。今はコーヒーが冷める前に写真を撮る時代らしい。その変化の象徴のように感じたのが、トレインストリートです。線路のすぐ脇に民家やカフェが並び、列車が通過する時間になると観光客が集まる、ハノイでも人気のスポットです。

私が初めてハノイを訪れた頃、そんな場所は知りませんでした。もしかしたらあったのかもしれない。
でも少なくとも、世界中の観光客がスマホを構える場所ではなかった。列車が近づくと、店の人が声をかけ、人々が線路脇へ下がる。そして目の前を列車が通り過ぎる。

近い。
近すぎる。

映えスポットと呼ばれる場所にも、ちゃんと本物の迫力がありました。
観光地化したハノイ。
でも、その奥には相変わらず、こちらの体温を一度上げてくるような熱気がありました。

シクロは減っていた

シクロ
撮影:ワタシト編集部

久しぶりのハノイで、ひとつやってみたいことがありました。シクロに乗ることです。映画『シクロ』に影響されまくっていた20代の私への供養でもあります。

ぼられてもいい。
思い出代だと思えば安い。

そんな気持ちで探したのですが、思った以上に見かけませんでした。代わりに増えていたのはGrab。東南アジア版のタクシー配車アプリで、スマホひとつで車もバイクも呼べます。

目的地も料金も最初からわかる。若い頃の私なら、「旅は交渉も醍醐味だ!」なんて言っていたはずです。でも今の私は、「料金が最初からわかるって最高」と思っています。

人は歳を重ねると、冒険より安心に拍手を送るようになります。

ちょっと悔しい。
でも、すごくラク。

風を感じる乗り物は、風より効率に負けていました。

まあ、私も似たようなものです。
若い頃は「面白そう」で選んでいたものを、今は「ラクそう」で選ぶこともある。それでも、あの頃よりずっと静かに笑えるようになったのは、老化ではなく進化だと思いたい。

ハノイへ行ったら、ブンチャーを食べたい

ブンチャー
撮影:ワタシト編集部

今回の旅で何度も食べたのが、ハノイ名物のブンチャーです。ブンチャーは、炭火で焼いた豚肉を甘酸っぱいタレに入れ、米麺とたっぷりのハーブと一緒に食べる料理。

香ばしい肉。
甘じょっぱいタレ。
もりもりの香草。
それをビールで流し込む。
最高です。

30年前にも食べました。ちゃんと覚えています。でも今回食べたブンチャーは、記憶の中のそれよりずっとおいしかった。

料理が変わったのか。
私が変わったのか。
たぶん後者です。

若い頃は刺激ばかり追いかけていた。でも今は、炭火の香りとか、タレの奥にある旨みとか、そういうものに簡単に感動する。年齢を重ねるって、味覚が豊かになることなのかもしれません。

ハノイにはブンチャーの店がたくさんあります。ローカルな食堂で食べるのもいいし、旅行者に人気の有名店を目指すのもいい。お昼どきは混み合うこともあるので、少し早めに行くと安心です。

旅の目的は、世界遺産でも絶景でもいい。
でも私は、ときどき食べ物に呼ばれて旅をします。今回、私をハノイへ呼び戻したもののひとつは、間違いなくブンチャーでした。

ハノイは私を覚えていなかった

ハノイの街並み
撮影:ワタシト編集部

30年ぶりに訪れたハノイは、私を覚えていませんでした。
そりゃそうです。私だって、当時の自分の顔をうまく思い出せない。でも、記憶の片隅に残っていたものはいくつもありました。

ホコリっぽい空気。
道ばたでチリチリ焼かれている肉の匂い。
命がギリギリ守られている感じの横断歩道。
バイクの洪水。
クラクション。
湿気。

街は確かに変わっていました。
観光地になり、映えカフェが増え、スマホで車を呼べるようになった。でも、それ以上に変わっていたのは私のほうだった気がします。

若い頃は、安いとか、珍しいとか、刺激的だとか、そういう目線で旅をしていました。
今は違う。

市場のおばちゃんを見ている。
朝ごはんを食べる人を見ている。
道ばたで昼寝する人を見ている。
観光地より暮らし。
絶景より日常。

湿度と記憶のあいだで足踏みしながら、この街のエネルギーに改めて元気をもらっている。少し泣きそうになるくらいに。

でも泣くのも暑いので、とりあえずブンチャーを食べる。
そういう年齢になりました。

30年前の私は、へそを出してシクロに乗っていた。今の私は、虫よけスプレーを振りながらWi-Fiを探している。
どちらも私です。そして、どちらも案外悪くない。

ただひとつ違うのは、今の私は旅先で無理をしない。ヒールも履かない。見栄も張らない。その代わり、ブンチャーはおかわりする。人生、そういう方向へ進化している。

ハノイの喧騒をあとにして、私はさらに北を目指しました。
目的地は、ベトナム北部の山岳地帯にあるサパ。体力のあるうちに山を歩きたくて。……というのは半分本当で、半分は自分への言い訳です。

本当は、寝台バスに乗ってみたかった。
いい大人になっても、「わざわざ時間をかける旅」には抗えません。
次回は、ハノイから寝台列車で向かった霧の町、サパの旅をお届けします。

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大人の一人旅

※本記事の内容は、本記事作成時の編集部の調査結果に基づくものです。
※本記事に掲載する一部の画像はイメージです。
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執筆者
ライター
おだりょうこ
猫と旅、音楽と映画で形成されたライター&エディター。旅欲が止まらない旅ジャンキー。料理は作るの食べるのも好き。日々の暮らしにひとさじほどの丁寧さを意識することを心がける日々。
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