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更新日: 2025年10月20日

素材から、服の未来をつむぐ。Bioworksが描く “新しい豊かさ” のかたち

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環境にやさしい服―。そう聞くと、「地味そう」「高そう」と思ってしまう人もいるかもしれません。でも、もしそれが、気持ちよくて、かわいくて、地球にもいい素材だったら?京都発の素材ベンチャー・Bioworks(バイオワークス)は、そんな“わがままな理想”を、まっすぐに形にしようとしています。Bioworks株式会社 クリエイティブ・コミュニケーション部広報の山家絵里(やまかえり)さんに、植物由来素材「PlaX™(プラックス)」誕生の背景と、Bioworksが描く“新しい豊かさ”についてお話を伺いました。

ポリ乳酸の“挫折”と“再挑戦”から生まれた PlaX™

Bioworks株式会社山家 絵里さん
Bioworks株式会社 クリエイティブ・コミュニケーション部広報 山家絵里さん

――まず、「ポリ乳酸(PLA)」とはどんな素材なのでしょうか?

ポリ乳酸とは、トウモロコシやサトウキビなど、植物を原料にしたバイオマス素材です。発酵によってできる「乳酸」を重ね合わせてつくられ、石油を使わない“地球にやさしいプラスチック”として、2000年代初頭に注目されました。

ところが、実際に使ってみると、熱に弱く(50℃前後で変形)、染まりにくく、コストが高い。期待は大きかったものの、実用化には至らず、多くの大手企業が開発・商品化から撤退していったんです。

「環境にはいいけれど、扱いづらい素材」。ポリ乳酸は、そんな評価のまま、広い用途で実用化されることはありませんでした。

――そのなかで、Bioworksは研究を続けたのですね。

はい。Bioworksの創業は2015年です。多くの企業がポリ乳酸の開発から撤退してから、すでに10年以上が経っていました。その間にも弊社CTOの寺田は、「この素材にはまだ未来がある」と信じて、研究を続けてきました。この10年の間に、ポリ乳酸の課題を克服できる手ごたえが見えてきたんです。

素材開発は地味な積み重ねです。思うようにいかない日も多く、成果が出るまで時間もかかります。それでも、「誰もやらなくなったからこそ、やる意味がある」と信じていました。

そうして積み重ねた年月の先に、“弱点を改善する方法”が見えてきた。ポリ乳酸を“未来につながる素材”へと進化させる、その道筋が生まれたんです。

改質によって生まれた新素材「PlaX™」

bioタオル
出典:Bioworks

――その「弱点を改善する方法」とは?

独自開発の植物由来の改質成分を加えたたことによって、耐熱性は約130℃、耐久性は10年以上にまで向上しました。従来のポリ乳酸では考えられなかった性能です。

さらに、染色性も改善し、110~120℃の条件で分散染料がしっかり入るようになり、これまで難しかった鮮やかな色や深みのあるトーンの表現もできるようになりました。

そうして誕生したのが、改質ポリ乳酸素材「PlaX™」です。“環境にやさしい”だけでなく、デザイン性や機能性も諦めない素材を目指しました。

――PlaX™は、どんな特徴を持っているのでしょう?

とても軽くて、通気性がよく、速乾性にも優れています。そして、ポリ乳酸そのものに抗菌・防臭効果があるため、
加工に頼らず清潔さを保てるのが特徴です。採用ブランドの社内試験では「120日間インナーを着続けても臭わなかった」というテスト結果もありました(笑)。加工による“機能性”ではなく、素材自体の性質で快適さを保てるのは大きな強みです。

bio PlaX™100%・カタメ│半袖ポケットTシャツ
出典:Bioworks

さらに、製造工程ではCO₂排出量を約70%削減、水の使用量を約90%削減。「環境にやさしい」と「着て気持ちいい」がちゃんと両立できる。その感覚を、服を通して届けたいと思っています。

「素材をつくる」から「文化をつなぐ」へ

bio PlaX™・セッケツ│半袖ロングワンピース
出典:Bioworks

――PlaX™が実用化できる素材になったあと、Bioworksとしてはどんな展開を考えたのでしょうか?

素材をつくるだけではなく、「着る人に届くかたち」にしたかったんです。そこから糸・布・製品づくりまで踏み込み、インナーやタオルなど、肌に触れる製品を中心に展開しています。

他社ブランドとの協業に加えて、自分たちの言葉で、直接ユーザーに届けるため、自社ブランド「bio 」を立ち上げました。PlaXを使ったウェアやタオルを、自分たちの言葉で、直接ユーザーに届けるためです。

出典:bio ONLINE STORE

また、繊維開発にシフトした際に、繊維メーカーの長谷虎紡績さん、ニット機械の島精機製作所さん、スポーツアパレルゴールドウインさんに参画していただきました。

それぞれの強みを生かして、“研究室の素材を、街で着られる服へ”と形にしています。異なる分野の企業が手を取り合うことで、PlaX™は「机上の理想」から「日常の素材」へと歩み出しました。

「食料を服にする?」課題への向き合い方

bio PlaX™・セッケツ│長袖ドローコードワンピース
出典:Bioworks

――植物由来の素材というと、食料との競合も指摘されますよね。

そうですね。ポリ乳酸の原料は、とうもろこしやサトウキビなど、一見すると「食べ物」です。Bioworksではタイ産のサトウキビを使用しています。タイ全体の耕地面積のうち、ポリ乳酸の原料向けのサトウキビの耕地は0.08%。粗糖全生産量のうち、ポリ乳酸製造向けに必要な粗糖の量の割合は1.2%と、現状の影響はごく僅かです。

また、将来的なバイオマス原料の需要増加などの影響を見据え、使用したPlaX製品から新たな原料を生み出すケミカルリサイクルの実証実験を進めています。バイオマス素材を広めるために新たな自然を壊すのではなく、すでにある資源をどう生かすかが、私たちのスタンスです。

「見えること」が、これからの信頼になる

bio フェイスタオル
出典:Bioworks

――世界的に見ると、バイオマス素材はどのように広がっているのでしょうか?

バイオマス素材への関心が確実に高まるなか、とくにヨーロッパでは環境規制が年々強化されていて、素材がどこで、誰の手によって、どんな方法でつくられたのかを明示することが求められています。

たとえば、ファッションのハイブランド各社も、“環境に配慮した素材”という言葉だけではなく、生産背景やトレーサビリティを重視しています。

つまり、「よい素材」かどうかは、性能だけでなく“見えること”が信頼になる。Bioworksもその流れを大切にしています。原料調達の段階から、環境負荷を可視化し、サトウキビやとうもろこしといった植物由来資源がどんなルートで服になるのかを透明にする。そこに誠実さがあると思っています。

バイオマス素材は、地球環境を守るだけでなく、ものづくりの価値観そのものを変えていく存在だと感じています。

“使って終わり”にしない、循環のしくみへ

bioworksのタオル
撮影:ワタシト編集部

――PlaX™は、循環型素材としても注目されています。

はい。私たちは、ケミカルリサイクルの実装にも力を入れています。PlaX™は低いエネルギーで再資源化できるため、「使って終わり」ではなく、「何度でも使える素材」にできます。

今後の課題は回収・リサイクル・再資源化の仕組みを、アパレルメーカーと一緒に構築することです。素材が戻るループをつくることで、“長く使うこと”と“再び生かすこと”の両方を実現したいと思っています。

PlaX™の可能性は、アパレルだけにとどまりません。化粧品のパレットや漁網、パッケージなど、石油由来素材が使われてきた分野への応用も進んでいます。

“地球にも人にも気持ちいい素材が当たり前になる未来”。それが、私たちの描くビジョンです。

――服を選ぶとき、私たちはどんなことを意識すればいいでしょうか?

服を選ぶとき、その“素材”に少しだけ想いをめぐらせてみてください。それだけで、服との関係が少し変わると思います。その小さな選択が、未来を少し明るくしてくれるかもしれません。

◇◇◇

サトウキビ畑の太陽の光を受けて育つ素材が、やがて服になり、街を歩く。山家さんのお話を聞きながら、「素材」もまた、生きているものなのだと思いました。

環境への配慮と、デザインの美しさ。その両方を信じる企業があることが、ファッションの未来を少し心強くしてくれます。そして、それを選ぶ私たち一人ひとりの手の中にも、未来を変える力が、きっとあるのだと思います。

取材、文/おだりょうこ

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※本記事の内容は、本記事作成時の編集部の調査結果に基づくものです。

監修者
ライター
ワタシト 編集部
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