
ごまをするだけじゃ、もったいない。台所で長く付き合いたい「すり鉢」
すり鉢は、実家にはあったけれど、自分では持っていない。そんな人は意外と多いかもしれません。私も長い間、「ごまをするためだけの道具」だと思っていました。でも、一度暮らしに迎えてみると、その印象はすっかり変わりました。する、つぶす、混ぜる。たった一つの道具なのに、料理の幅がぐっと広がる。しかも何十年と使い続けられる。今回は、そんな日本の手仕事が生んだ道具、「すり鉢」の魅力をご紹介します。
何百年も変わらない、日本の知恵

すり鉢は、日本の食卓を長く支えてきた道具です。土で作られた鉢の内側には、「くし目」と呼ばれる細かな溝があります。この溝に食材が引っかかることで、軽い力でも効率よくすりつぶすことができます。
すり鉢の役割は大量のごまをするためではありません。香りを引き出し、食感を残し、素材のおいしさを生かすため。見た目は昔からほとんど変わっていないのに、今の暮らしにもちゃんと馴染む。そんな道具は、案外多くありません。
ごまは、「する」と別物になる

すり鉢を買ったら、まず試してほしいのは、やっぱりごまです。
市販のすりごまも便利ですが、炒りごまを食べる直前にするだけで、香りは驚くほど豊かになります。ふわっと立ちのぼる香ばしさに、「ごまってこんなに香るんだ」と驚くはずです。
ほうれん草のごま和え。
冷ややっこ。
冷しゃぶ。
そうめんの薬味。
ごまをほんの少し加えるだけで、いつもの料理がおいしく感じられます。便利さを選ぶことももちろん大切ですが、この香りだけは、すったごまでしか味わえません。
実は、ごま以外でも大活躍

すり鉢は、ごま専用の道具ではありません。
長いもをすれば、そのままとろろご飯に。木綿豆腐と調味料を合わせれば、なめらかな白和えの衣があっという間にできます。フードプロセッサーでは滑らかになりすぎるところも、すり鉢ならほどよく豆腐の食感が残り、どこかやさしい仕上がりに。

蒸したかぼちゃをつぶせば、かぼちゃサラダも簡単です。
マヨネーズやクリームチーズを加えれば、少しごろっとした食感が残る、お店のデリのような味わいになります。
「つぶす」「混ぜる」という使い方を覚えると、すり鉢の出番はぐんと増えていきます。
手間ではなく、料理を楽しむ時間

電動の調理器具なら、数秒で終わることもあります。それでも私は、ときどきすりこぎを手に取ります。
ごまをする音。
少しずつ香りが立ってくる時間。
すりこぎを回すたびに、台所に香ばしい香りが広がります。
急いでいる日は面倒に感じることもあります。でも休日の夕方には、そのゆっくりした時間が心地よく感じるのです。料理を「終わらせる」のではなく、「楽しむ」。すり鉢は、そんな時間まで一緒に作ってくれる道具なのだと思います。
長く使うほど、台所になじんでいく
すり鉢は流行の道具ではありません。新しい機能が増えるわけでもありません。でも、壊れない限り何十年も使えます。使うたびに、「やっぱりあると便利だな」と思う。そして気づけば、台所で自然と手が伸びる存在になっています。
長く使う道具というのは、毎日活躍するものだけではありません。必要なときにちゃんと応えてくれる。そんな道具もまた、暮らしを豊かにしてくれます。
旬の野菜をつぶしたり、和え衣を作ったり、料理にひと手間のおいしさを添えてくれるすり鉢。昔から変わらない形には、ちゃんと理由がある。そんなことを、使うたびに教えてくれる、日本の手仕事の知恵なのです。
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