
ごりごり挽く数分が、朝をつくる。ポーレックスのコーヒーミル
電動なら数秒です。それでも、豆を入れてハンドルを回す朝があります。ごり、ごり、と音がして、少し遅れて香りが立つ。飲むまでに余計な工程がひとつ増えるのに、その面倒がなくならない。ポートレックスのコーヒーミルは、効率とは別のところで暮らしに残った道具です。長く使ってきた理由を、朝の台所と旅先から考えます。
目次
便利になっても、ここだけは手でやりたい

朝、コーヒーを淹れます。豆を量って、ミルに入れて、ハンドルを回す。
ごり、ごり、ごり。
豆が砕ける感触が手に伝わり、少し遅れてコーヒーの香りが立ってきます。この数分、私は毎朝ほぼ同じ動きをしています。
もちろん、電動ミルならもっと早い。スイッチを押せば数秒です。文明はとっくにそこまで来ています。それなのに、私は自分でハンドルを回している。
なぜ自分で作業を増やしているのか。朝から軽い疑問です。でも、豆を挽いている時間は不思議と嫌いではありません。まだ頭が完全には起きていない時間に、手だけを動かす。ごりごりという音を聞いているうちに、今日も一日が始まるらしい、と体が少しずつ理解していく。コーヒーを淹れるための道具なのに、いつの間にか朝を始めるための道具にもなっていました。
この小さなミル、鹿児島県産です

ポーレックスのコーヒーミルを長く使っていますが、あらためてその素性をたどってみると、ちょっと意外でした。鹿児島県産なのです。つくられているのは、名峰・霧島の麓。ポーレックスはこの地に自社工場を構え、セラミック製品の研究開発から製造までを手がけています。
毎朝、寝ぼけた顔でごりごり回していたものが、霧島生まれだった。
急にこちらの姿勢が正されます。でも、私はだいたいパジャマです。
ポーレックスのコーヒーミルの心臓部ともいえるのが、臼歯式のセラミック刃。金属ではなくセラミックを使うことで錆びる心配がなく、丸洗いでき、金属臭が豆に移りにくいのも特徴です。

豆を力任せに細かくするのではなく、臼のように挽く。その技術によって、コーヒー豆が持つ風味や個性をできるだけ損なわず引き出してくれます。
こう書くと、ずいぶん職人気質な道具に思えてきます。実際、その技術力は高く評価され、ポーレックスのコーヒーミルは鹿児島県で初となる文部科学大臣賞も受賞しています。
とはいえ、私が朝から「文部科学大臣賞……」と思いながらハンドルを回しているわけではありません。私にとってありがたいのは、もっと生活に近いところです。洗える。錆びにくい。電源はいらない。構造もシンプル。そして、ちゃんとおいしく挽ける。毎日使う道具に必要なのは、華々しい経歴より、今日も明日も面倒なく使えることなのだと思います。
でも、その「当たり前に使える」の裏側に、霧島で積み重ねられてきた技術がある。そう知ると、いつもの「ごりごり」が、ほんの少し違って聞こえてきます。
台所でも、旅先でも、存在感がうるさくない

ポーレックスのミルは、細身のステンレス製。台所に置いても場所を取らず、バッグにも入れやすい。電源がいらないので、旅やアウトドアにも持っていけます。
コーヒーの道具というのは、凝り始めるとなかなか大変です。ドリッパーが増え、ケトルが増え、豆の保存容器が増え、そのうち道具のほうから、
「ところで豆の産地について、少しお話ししませんか」
と言ってきそうな世界があります。
私はコーヒーが好きですが、朝から道具に圧をかけられたくはありません。その点、ポーレックスは静かです。
豆を入れて、挽く。仕事はそれだけ。
ステンレスの筒状の姿も主張が強くなく、台所に置きっぱなしでも邪魔に感じません。使う側にコーヒー哲学を要求してこないところも、長く付き合えている理由なのかもしれません。
棚の奥に行かない道具には、理由がある
長く使う道具というと、頑丈であることばかりを考えがちです。でも実際には、壊れないだけでは残りません。
使うのが面倒。
洗うのが面倒。
出すのが面倒。
しまうのが面倒。
この「面倒」が積み重なると、どんなに立派な道具でも少しずつ棚の奥へ移動していきます。棚の奥には、かつて私たちが「一生使う」と誓ったものたちが、わりと静かに眠っています。
ポーレックスは、そこへ行かなかった。
セラミックの刃は分解して洗えるので、コーヒーの粉や油分が気になったら手入れができます。金属刃のように錆びる心配がないのも、日常使いにはありがたいところです。
そして何より、使い方が単純です。
豆を入れる。
ハンドルを回す。
長く使える道具には、耐久性と同じくらい「使い続けるのが億劫にならないこと」が大切なのだと思います。
手で挽くから、自分の一杯になる
手挽きミルには、もうひとつ面白いところがあります。挽き終わるまで、そこから離れられない。電動ならスイッチを押して、その間にトーストを焼いたり、冷蔵庫を開けたりできます。
手挽きはできません。
ごりごり。
ただ、挽く。
効率という点では、まったく勝ち目がありません。でも、その数分があることで、一杯のコーヒーが少しだけ「自分で淹れたもの」になる気がします。
豆の硬さによってハンドルの感触が違ったり、挽き始めた瞬間に香りが立ったりするのも、手で挽いているから気づけることです。毎朝同じことをしているようで、まったく同じではない。そんな小さな違いを感じられるところも、この道具を使い続けている理由です。
これは豆を挽く道具であり、朝を始める道具でもある

長く使っているものには、ときどき本来の用途とは別の役割が生まれます。ポーレックスは、もちろんコーヒー豆を挽くための道具です。でも私にとっては、それだけではなくなりました。
朝、豆を入れる。
ハンドルをつける。
ごりごり挽く。
お湯を沸かして、ゆっくり注ぐ。
香りが立つ。
ようやく飲む。
急いでいる朝には、もっと簡単な方法はいくらでもあります。それでも、この数分をなくそうとはあまり思いません。暮らしは、なくても困らない時間で案外できています。
コーヒーを手で挽くことも、たぶんそのひとつ。効率だけを考えれば、真っ先に削られそうな時間です。でも、朝くらい、少し遠回りしてもいい。
明日の朝、コーヒーを淹れるなら、いつもより少しだけ手間をかけてみませんか。
豆を挽く。香りを待つ。お湯を注ぐ。たったそれだけですが、慌ただしく始まる一日の前に、自分のためだけに使う数分ができます。
便利なものを増やすだけが、暮らしをよくする方法ではないのかもしれません。
私は明日の朝も、たぶんまた、ごりごり挽きます。

ポーレックス コーヒーミル2
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