
漆器を暮らしに。日々の食卓で感じる、ぬくもりと時間
木のぬくもりに、手のあたたかさが重なる。漆器を使う時間には、不思議な静けさがあります。職人の手で何度も塗り重ねられた器は、特別な日のためだけではなく、普段の食卓を少しだけ丁寧にしてくれる存在です。汁物だけでなく、お菓子やサラダ、洋風のおかずにも。3段のお重だって、おせちの季節だけのものではありません。使うたびに艶が増して、手に馴染んでいく。そんな“変化を楽しむ暮らし”こそ、漆器のいちばんの魅力です。
漆器を“普段使い”するという贅沢

毎日の食卓に漆器を並べると、それだけで空気が少し変わります。高価なものを特別扱いするのではなく、使いながら育てる。そんな楽しみ方を知ると、暮らしの景色がやさしく変わっていきます。
使うたびに、手に馴染んでいく
漆器の魅力は、なんといってもその手触りです。
指にすっと吸い付くような質感。持つたびに体温が伝わり、ほんのりと温かく感じます。
陶器やガラスとは違う、静かなぬくもり。それはまるで、人の手の仕事が今もそこに息づいているかのようです。使い続けるうちに艶が深まり、小さな傷も味わいに変わっていく。「使うほどに育つ」というのは、まさに漆器のための言葉のような気がします。
お味噌汁はもちろん、スープやヨーグルトを入れてもいい。ちょっとした果物や和菓子を盛るだけでも、いつものおやつ時間が少し上品になります。
特別なものを“日常”にする
漆器というと、「お正月にしか使わない」「扱いが難しそう」と思う方も多いかもしれません。でも、実はとても丈夫で、毎日使える器なんです。
漆は熱にも強く、軽くて割れにくい。朝のスープ、夜の煮物、そしてお茶の時間のお菓子皿にも。使うたびに漆が磨かれて、自然な艶が生まれます。しまい込んでおくより、使うことが一番の“お手入れ”。漆器が持つ美しさは、生活の中でこそ育つのです。
日本の手仕事がつくる、漆の世界

どんなに機械化が進んでも、漆の艶やぬくもりは人の手からしか生まれません。その時間と手間を思うと、器の向こうに職人の息づかいが見えてきます。
秀衡塗と会津漆器──東北の美が息づく器

私が長く使っているのは、岩手の秀衡塗と福島の会津漆器です。どちらも東北の寒さと湿度の中で育まれた、堅実な美しさを持っています。
秀衡塗というと、金箔や華やかな文様を思い浮かべる方が多いかもしれません。でも、私が選んだのは金を使わない、無地に近いシンプルな秀衡塗。職人の塗りの美しさが際立つ、静かな佇まいの器です。
艶やかな漆面は、光を柔らかく受け止めて、どんな料理も引き立ててくれます。控えめなのに、確かな存在感。それは、見た目の派手さではなく、丁寧な仕事の積み重ねから生まれるものです。
一方の会津漆器は、やさしい艶と落ち着いた色合いが魅力。少し丸みを帯びた形と深い朱色が、食卓にあたたかさを添えてくれます。
どちらの器も、使うたびに手にしっくりと馴染み、「長く使う」という言葉の意味を教えてくれる気がします。特別なものを“しまう”のではなく、普段使える美しさを選ぶ──それが、私の漆器の選び方です。
お重は“ハレの日”だけのものじゃない

お重は「おせち専用」と思われがちですが、実は日常にも寄り添える器です。黒や朱の漆器が、いつもの食卓を少し特別に見せてくれます。
3段のお重を、もっと自由に
お正月や行事のたびに出して、またしまう。そんな“特別な器”として扱われがちな漆のお重ですが、実は、普段使いにもぴったりなんです。
たとえば、一段にチーズとクラッカーを盛ってワインと合わせて。もう一段には、マドレーヌやフィナンシェなど洋風のお菓子を。最後の段にラタトゥイユ、ロースト野菜を入れて晩ごはんに。漆の黒や朱は、洋の食材の色を引き立ててくれます。
また、白い陶器やガラスの食器とも相性がよく、漆の艶が加わることでテーブル全体に深みが出ます。和にも洋にも合う。それが、漆器の懐の深さです。
ちなみに、漆器は熱湯や電子レンジはNGですが、あたたかい料理や常温のおかずなら問題ありません。“ぐつぐつ”でなければ大丈夫。気をつけるのは、そのくらいのゆるいルールです。
構えずに、使って、育てていく。そのほうがずっと、漆器も嬉しそうに見えます。
長く使うためのお手入れとコツ

漆器と長く付き合うためには、少しのコツと“気づかい”があれば十分です。漆器は、思っているよりずっと丈夫で、気難しくありません。
実は、難しくない
漆器のお手入れというと「扱いが大変そう」と思われがちですが、実際はとてもシンプル。使い終わったら、柔らかいスポンジでぬるま湯洗い。強い洗剤やたわしは使わず、優しく洗って布で水分を拭き取るだけ。
乾かすときは、直射日光を避けて自然乾燥を。もし白っぽく曇ってきたら、少量のオリーブオイルを布につけて軽く拭いてあげると艶が戻ります。
「手をかける」というより、「気にかける」くらいがちょうどいい。それくらいが、漆器とのやさしい距離感です。
暮らし、少しの“静けさ”を

慌ただしい毎日の中で、器を丁寧に扱う時間は心に余裕が生まれます。私にとって漆器は、そんな“静けさ”を思い出させてくれる器です。
朝のお味噌汁をよそうだけでも、少しだけ背筋が伸びる。それは、漆器が“日本の心”をそっと思い出させてくれるからかもしれません。
派手ではないけれど、確かに美しい。
そんな器が食卓にあると、日常が少しだけ丁寧に感じられます。
長く使うことで育つ艶も、手に残るぬくもりも、と暮らしの中で、やさしい記憶になっていくと思います。
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