
時間を見るたび、少し気分がいい。カルティエ「タンク」という時計
最近は、時間を見るだけならスマートフォンで十分です。それなのに、なぜ腕時計をつけるのでしょう。私自身、仕事や旅ではアップルウォッチを使っています。便利さでいえば、その方がずっと優秀です。それでも、ときどき腕時計が恋しくなる。時間を確認するためというより、時間と少し丁寧につきあいたい日があるからかもしれません。
カルティエのタンクは、そんな日に手に取る時計です。100年以上前から愛されてきた理由は、単に美しいからだけではないような気がしています。
目次
100年以上愛される時計

Cartier(カルティエ)は1847年にフランス・パリで創業した宝飾店です。「王の宝石商、宝石商の王」と呼ばれ、ヨーロッパの王侯貴族に愛されてきました。
そんなカルティエが生み出した時計の中でも、ひときわ長く愛されているのが、時計コレクション「タンク」です。タンクが誕生したのは1917年。第一次世界大戦中に登場した戦車を上から見た姿をモチーフにデザインされたことから、その名が付けられました。

直線的なケース。
ローマ数字の文字盤。
リューズにあしらわれたブルーのカボション。
100年以上前に完成したデザインとは思えないほど洗練されています。
流行が移り変わっても、タンクが古びて見えないのは、流行そのものとは違う場所に立っているからなのかもしれません。
ジュエラーだから作れた時計
カルティエはもともと時計メーカーではなく、ジュエラーです。
だからでしょうか。タンクには機械としての時計とは少し違う魅力があります。時間を知るための道具でありながら、身につけるアクセサリーでもある。その絶妙なバランスが、この時計の美しさだと思うのです。
私が持っているのは、ステンレススチールのブレスレットタイプのタンク。白い文字盤に黒いローマ数字、青い針という、タンクらしいデザインです。
決して華美ではありません。
でも腕につけると、不思議と背筋が伸びます。
白いシャツにも似合うし、黒いワンピースにも似合う。デニムの日だって違和感がない。主張しすぎないのに、ちゃんと存在感がある。それはカルティエというブランドが長い時間をかけて育ててきた美意識なのだと思います。
革ではなく、ステンレスを選んだ理由

私が選んだのは、革ベルトではなくステンレススチールのブレスレットタイプです。
タンクといえば、革ベルトを思い浮かべる人も多いかもしれません。確かにその姿はクラシカルで、とても美しい。映画のワンシーンに出てきそうな品があります。実際、購入するときは革ベルトにも心が動きました。でも最終的に選んだのはステンレスでした。
理由は単純です。その方が私の暮らしに合っていたから。取材で出かけることもありますし、旅にもよく出ます。夏に汗をかくこともあれば、急な雨に降られることもある。そんな日常を考えたとき、気兼ねなく使えるのはステンレスの方でした。せっかく買ったのに、「今日はやめておこう」と思う時計にはしたくなかったのです。
もちろん革ベルトならではの魅力もあります。使い込むほど味わいが増し、持ち主の時間が刻まれていく。それも素敵です。でも私にとっては、気負わずに身につけられることの方が大切でした。
長く使うものを選ぶとき、憧れだけでは続かないことがあります。
好きなことはもちろん大事。でも、自分の暮らしにちゃんと馴染むことも同じくらい大事。このタンクを見るたびに、そのことを思い出します。
毎日つける時計は、別にあります

実は、私が毎日身につけている時計はApple Watchです。原稿の締切を確認したり、メッセージを受け取ったり。仕事中はその便利さにずいぶん助けられています。
電車に乗るときのコンタクトレス決済も便利ですし、買い物をするときに財布を出さずに済むのもありがたい。旅先でも、気軽につけられるアップルウォッチの出番が多くなります。
だから実用性だけを考えれば、私には十分すぎるほど足りています。それでもタンクを持ち続けているのは、役割が違うからです。
アップルウォッチは、今日を効率よく過ごすための時計。
タンクは、今日を少し楽しむための時計。
私の中では、そんな違いがあります。
少しだけ丁寧に過ごしたい日に
タンクを身につけるのは、大切な人と食事に出かける日だったり、美術館へ行く日だったり。何か特別な予定がある日というより、「今日は少し丁寧に過ごしたいな」と思う日です。
お気に入りの服を選ぶように、時計も選ぶ。そんな感覚に近いのかもしれません。
取材や打ち合わせの日に身につけることもあります。特別な力が湧いてくるわけではありません。でも腕にタンクがあると、少しだけ背筋が伸びる。そんな気がするのです。
若い頃は、高価なものを持つことに少し抵抗がありました。背伸びをしているような気がしていたのです。でも年齢を重ねて思うのは、本当に好きなものを長く使うことは、見栄とは少し違うということ。
流行に合わせて買い替えるのではなく、自分が心地いいと思えるものを大切に使う。それはむしろ、肩の力が抜けた選択なのかもしれません。
時間も一緒に刻まれていく
私のタンクは、新品の頃のままではありません。ブレスレットには細かな傷がありますし、よく見ると使ってきた跡もあります。でも、その傷が気になるかというと、そうでもないのです。むしろ、そのひとつひとつに時間が刻まれている気がします。
この時計をつけて出かけた日のこと。
久しぶりの友人と会った日のこと。
時計を外した夜のこと。
時計は時間を示す道具ですが、同時に持ち主の時間も蓄えていく、そんな役割があるような気がします。
いつか娘に譲れたら

長く使うものについて考えるとき、最近は少し先のことも考えます。
この時計を、いつか娘に譲れたらどうだろう。
もちろん、本人が欲しいと思うかどうかはわかりません。スマートウォッチの方が便利だと言うかもしれないし、好みだって違うでしょう。それでも、もし受け取ってくれたらうれしいなと思うのです。時計そのものというより、「好きなものを長く使う」という考え方ごと渡せたらいい。
流行が過ぎても好きでいられるもの。
少し傷がついても使い続けたいと思えるもの。
そんな存在がひとつあるだけで、暮らしは少し豊かになる気がします。
長く使うというのは、単に壊れないことではありません。
時間を重ねること。そして、その時間の価値を知ること。100年以上愛されてきたタンクには、そのことを教えてくれる力があります。
時間を見るたび、少し気分がいい。
私にとって、それは案外大事なことなのです。
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